依存症ってどんな病気?
 
 
【依存症の7つの特徴】
 依存症とは、一般に「○○をやめたいと思っているにもかかわらず、つい使ってしまい、自分のこころやからだの健康を損なったり、職業的・社会的な活動に障害をひきおこしてしまう病気」と説明されています。「○○」の部分には、アルコールや薬物が“人によってはギャンブルや買い物”もあてはまります。しかし、これだけではよくわからないですよね?
 依存症には7つの特徴があります、それを理解しておきましょう。自分の場合はどうか、当てはまるものがあるか考えながら、読み進めてください。
 
 
1)一次性の病気です
 依存症についてよくある誤解は、「意志が弱い」、あるいは「性格に問題がある」ことが原因であるというものです。また、「トラウマのせいで」とか、「仕事のストレスから」とかいったことを原因と誤解している人もいます。
 しかし、そうではありません。アルコール・薬物依存症の原因は、アルコール・薬物を使ったことにあるのであって、意志や性格ではありません。また、トラウマやストレスがあっても、アルコール・薬物を使わなければ、アルコール・薬物依存症にはなりません。これが、「一次性」という言葉の意味です。
 
2)慢性の病気です
 慢性の病気というと、多くの人が思い浮かべる病気は、高血圧や糖尿病だと思います。高血圧とか糖尿病と診断されると、塩辛い食べ物をいくら食べても血圧があがらないとか、好きなだけケーキを食べても血糖値は上がらないとかいう体質には戻れません。「慢性」という言葉が意味しているのは、「治らない」ということなのです。
 同じように、一回でも薬物・アルコールの快感を経験した人は、脳に薬物・アルコールをほしがる部分が生じてしまい、一生これを消すことはできません。依存症は、治ることの無い、慢性の病気なのです。
 治らないからといってがっかりすることはありません。たしかに高血圧や糖尿病は治らない病気ですが、毎日、食事に気をつけ、必要に応じて服薬すれば、これらの病気とうまくつきあい、社会的に活躍している人はいくらでもいます。同じように、薬物・アルコール依存症は治りませんが、アルコール・薬物を使わない生活を続けることによって、健康を回復し、失われた信頼を取り戻すことは十分に可能です。
 
3)進行性の病気です
 誰でも薬物やアルコールを使い始めた頃は、自分なりにコントロールして使っているものです。週末しか使わず、仕事や家事にも支障を来さず、誰にも迷惑をかけず、誰からも疑われることなく、使うことができていた時期もあるでしょう。しかし、使い続けているうちに依存が進行してきて、さまざまな問題が生じるわけです。
 このように、薬物・アルコールをほんの少しでも使っているかぎり、依存症は進行し続けますし、再使用するたびに依存は深刻化し、失うものが大きくなります。たとえ10年間、薬物・アルコールをやめていても、10年後に再び薬物・アルコールを使えば、10年前の使い方の段階から進行が再スタートするのです。依存症の進行をとめるためには、薬物・アルコールをやめるしかありません。
 
4)死亡率の高い病気です
 薬物やアルコール依存症は死亡率が高い病気です。からだをこわして死亡する人も多いですが、自殺か事故かわからない死に方をする人もとても多いです。
 特に自殺の多さが際だっています。うつ病よりも多いと考えてもいいでしょう。その原因としては、(1)依存が進行するにつれて、仕事や家族をはじめとして多くのものを失い、社会的に孤立してしまうこと、(2)幻聴や妄想が出て追いつめられたり、(3)薬物やアルコールの離脱期に重いうつ状態に陥ったりすることがあげられます。また、薬物やアルコールに酩酊した状態で、転倒したり、転落して命を落とすこともあります。
 
5)性格が変化します
 性格が原因で依存症になるわけではないことは、すでに述べたとおりです。しかし、薬物やアルコールにはまってしまった結果、かつてとは別人のような性格になってしまうことがあります。お金や薬物やアルコールにつぎ込み、家族にさまざまな嘘をつき、周囲からの信頼を裏切ります。ささいなことで激しく怒り、暴力をふるい、何かにつけていいがかりをつけます。
 多くの人は、幼い頃からこうした性格であったわけではありません。子どもの頃には、素直で優しかった人が少なくありません。つまり、「嘘つき」「乱暴」「自分勝手」「冷酷さ」などは薬物やアルコールによってもたらされたものです。薬物やアルコールをやめつづけることによって、かつての自分を取り戻すことができます。
 
6)依存対象が容易に他のものへと移行します
 ひとたび何かの依存症になると、脳が物事にものめり込みやすい体質を記憶してしまいます。薬物をやめた後にアルコールに依存し、アルコールをやめると今度はギャンブルにはまったり、仕事にのめり込んだりする例は、非常に多くみられます。また、アルコールや薬物をやめた後に、ダイエットや食べることにはまりこみ、拒食や過食・嘔吐といった摂食障害の症状が出る人もいます。
 アルコール・薬物をやめた後に見られる、こうしたさまざまな依存症的行動は、最終的には・アルコール・薬物再使用の可能性を高めるので、注意が必要です。
 
7)人を巻き込む病気です
 依存症は、周囲の人を巻き込み、さまざまな影響を与えます。恋人や配偶者は「うつ病」になってしまうことがありますし、幼い子どものこころには大きな傷が残ります。親がアルコールや薬物の依存症の場合、子どもが何らかの依存症になる率は4~5倍に高まります。そうした子どもは、「自分は親のようにはならない」と決意しながらも、何かのきっかけでアルコールや薬物に手を出すと、依存症に陥りやすいといわれています。また、依存症の親をもつ子どもは、「摂食障害」「自傷行為」「ひきこもり」「自殺行動」といったこころの問題をもつことが多いといわれています。
 子どもの目の前で薬物を使うこと、また、薬物やアルコールのせいで親の感情が不安定になることは、それだけで子どものこころに虐待と同じ影響を与える可能性があります。

 SMARPP-24 物質使用障害プログラム「著書:松本俊彦・今村扶美」から引用