認知行動療法 
 
 
1)認知行動療法の歴史
 認知行動療法は、1950年代に米国で生まれ、1970年代に米国ペンシルバニア大学のアーロン・T・ベックがそれを治療的アプローチにまで発展させ「うつ病に対する精神(心理)療法(カウンセリング)」として開発したものです。その後、この認知行動療法は、うつ病、不安障害、摂食障害といったさまざまな精神疾患に対して応用されています。この治療による効果や疾患の再発予防効果を裏付ける文献も多く出版され、信頼できる心理療法として欧米を中心に広く使用されています。この認知行動療法は、日本では、1980年代後半より注目されるようになってきました。都市部を中心に治療を受けられる施設が増え、2010年4月からは、保険診療の対象となっています。
 昨今は、働く人のメンタルヘルスや学校の授業、身体疾患領域などにも利用され、精神科医療の枠組みを超えた取り組みが広がっています。
 

2)認知行動療法とは何か
 認知行動療法では、人の社会生活上の体験を、状況、考え(認知)、気分、行動、身体の状態の5つの領域から考えます。これら5つの領域がお互いに影響を及ぼしあって、状況に対する反応を形成しています。
 認知行動療法を受けたいとお考えの方なら、つらい気持ち、もしくは体の反応に困っていらっしゃるのだと思います。例えば不安になりやすく心臓がドキドキしやすい、憂うつな気分を抱え、体も重いし食欲もない、など。残念なことにどのような感情を抱きどのような体の反応がおこるかは自分で意識的に変える事は出来ません。しかし、どのように考えどのように行動するかは、ある程度、人間の意識の支配下にあります。この5つの領域は互いに影響を及ぼしあっていますから、考えや行動を変えることによって、辛い感情や身体の状態を変える事が出来ます。
 状況が変わらないのだから、考えを変える事は出来ない、とお考えになる方も多いかもしれません。しかし、認知行動療法をすると自然に考え方の幅が広がり楽になっていく事が多いものです。うつ状態の人の見方は「自分は誰からも相手にされない」「自分はダメだ」という自分に対する否定的な認知や「誰からも愛されない、誰も自分とは付き合いたいと思わないだろう」という周囲の人々に対する否定的な認知、「このつらい状況はずっと続いて、楽になる事はないだろう」という将来に対する否定的な認知に特徴づけられます。うつ状態になると脳の情報処理(認知処理)が、健康な時とは違った反応を示すのです。うつ状態の方とお話していると、現実が、その方の考えのなかで悪い方にゆがめられている事が多くあります。これは自分では自覚しにくいものです。認知行動療法を通して、治療者がガイドしながら、無理なく、より現実的な見方を増やしていけるようアドバイスを行います。
 また、「考え方」だけに注目するだけでなく、「上司との接し方が分からない」「朝起きれず、仕事に遅刻してしまう」「○○しないといけない事は分かっているが、一歩が踏み出せない」「夫や子供とどう向き合ったら良いか」などの身近な問題についても、一緒に考え解決策を探る事が出来ます。認知行動療法の治療者は皆さんがお困りの身近な問題に対して、その問題を整理し、一つ一つ解決してゆく姿勢をとります。そしてやがては、色々な問題を患者さんが自分で解決してゆけるように、独り立ちをサポートしてゆきます。
 このような「考え方」や「行動」に対するアプローチにより、うつ状態の改善を目指しています。
 

3)当院における認知行動療法
 当院では、認知行動療法を個人療法あるいはグループで行っています。個人療法は1回30分以上、回数は10回から20回の間で、患者様のニーズと治療の進み具合で決めてゆきます。治療者との話し合い次第で10回未満で終える人もいますし、慢性の問題に取り組むために20回以上を必要とする方もいます。この治療を担当するのは、厚生労働省が定めたマニュアルに従い、治療症例についてスーパービジョンという特別な訓練を1回以上受けた精神科医師、臨床心理士です。
 グループ療法の場合は、参加者は1グループ10名以内(6~8名)です。担当するのは精神科医師、看護師、臨床心理士、精神保健福祉士などです。このカウンセリングをグループで行う事でより深い気付きが得られ、治療の効果が高まります。参加者一人ひとりにも担当のスタッフが付くため、不十分なところを補足するなどの個人対応も可能です。1回90分、14回の治療を1クールとしています。
 

4)対象となる方
 対象となる方は、「うつ病」「適応障害」「不安障害」などで治療中の方、あるいはこれから治療を受けようと考えていらっしゃる方です。治療中の方は、主治医の推薦が必要です。(他院で治療中の方は、主治医より紹介状が必要となります。)現在治療を受けていない方は、一度当院での診察が必要です。当院外来までお電話頂き、「認知行動療法希望」とお伝えください。
 

参 考:日本認知療法学会 ホームページ http://jact.umin.jp/
    認知療法・認知行動療法治療者用マニュアルガイド 星和書店
    集団認知行動療法研究会 ホームページ http://cbgt.org/